実は間違って使っている漢字3選
「時」と「とき」、「方」と「ほう」、「物」と「もの」。 漢字とひらがなのどちらを使ったらよいかご存じでしょうか。先日同僚とご飯を食べているときに「実は間違って使ってしまっている漢字があるよね」という話になりました。それがおもしろいということでしたので、本記事では「実は間違って使っている漢字」をご紹介します。
日本語は「漢字」「ひらがな」「カタカナ」、はたまた「アルファベット(英語)」までもが混在して書かれる非常に珍しい言語です。他の言語では、使用する文字の形態が複数あることはほとんどありません。
習得が難しい世界の言語は中国語、日本語、アラビア語だといわれており、英語圏でこれらの言語を習得するのに要する時間は約2,200時間(!)であるという調査結果があります。
では、母国語としての日本語はどうなのかというと「文法的に正しく使う」という意味では非常に難しい言語だといえそうです。とはいえ、これは母国語としての日本語が特別に難しいという意味ではありません。日本語に限らず、たとえ母国語であっても「正しく」扱うのはどの言語においても難しいことです。
本記事では、日本語を「正しく」使ううえで、日常で間違って使っている漢字を三つご紹介します。
本記事でわかること
・「漢字」は表意文字、「ひらがな」「カタカナ」は表音文字
・漢字とひらがなの使い分けテクニック
「時」は前に何もなく単体で使う、「とき」は前に何かがついており併用するときに使う
「方」は用法が少し難しいため、迷ったら「ほう」を使えば間違うことはない
「物」は物質的なものを表すときに使うため、ほとんどの場合は「もの」を使うほうが無難
<目次>
1. それは「漢字」「ひらがな」どちらが正しい?
みなさんは、メールやLINEで文を書くとき、漢字とひらがなを意識的に使い分けていますか。実は日本語には、時と場合によって「漢字」「ひらがな」のどちらかが最適であるという表現が多数あります。
そもそもなぜ「漢字」「ひらがな」の使い分けが必要なのか。それは、それぞれの文字の性質がちがうことが理由です。
言語の性質として、表意文字と表音文字というものがあります。
●表意文字 字そのものに意味がある文字のこと
●表音文字 字に意味はなく、音だけを表す文字のこと
表意文字には意味がありますから、いつでも自由に使うということはできません。一方、表音文字には意味はないため、基本的には音が合っていれば誤用はおきにくいといえます。日本語では「漢字」が表意文字、「ひらがな」「カタカナ」(「アルファベット」)が表音文字にあたります。これらの言語の性質を知っておくと、次項からご紹介する「漢字」と「ひらがな」の使い分けが理解しやすくなります。
2. 「時」と「とき」
さて、前項でご紹介したように「漢字」には意味があり、「ひらがな」には意味がありません。ということは、「時」と「とき」の使い分けは、「時」という漢字の意味を伝えたいかどうか、で決まってくるといえます。ただし、ここでいう「漢字の意味を伝えたい」とは、その文を書く人の気持ちではなく、文章作法として「時」という漢字の意味を用いるべきか、という意味です。したがって、個人の意識によって使うべきときが変わることはありません。
まずは「時」という漢字の意味から考えましょう。「時」とは、時間あるいは時間の区切りを意味します。ここでいう時間とは、漠然としたものではなく、はっきり時間だといえるものを指します。
二つの例文を載せます。
1,時は金なり。
2,遊びにいくときは、全力で楽しみましょう。
例文1の「時」は、はっきりと時間を意味しています。
一方、例文2の「とき」は、はっきりとした時間というよりも、漠然とした「時間的なもの」を指していることがわかります。
このとき、
3,遊びにいく時は、全力で楽しみましょう。
と漢字を使ってしまうと、文法的には間違った表現となってしまいます。
とはいえたった三つの例文だけでは、慣れるまでは使い分けが難しく感じると思います。
本質的ではありませんが、使い分けテクニックとして
●漢字のとき 前に何もなく、単体で使うとき
●ひらがなのとき 前に何かがついており、併用するとき
とすれば、ほとんどの場合で正しい使い方となります。
これは「時」に限らず、次項以降のものにも共通したテクニックです。
3. 「方」と「ほう」
続いては「方」と「ほう」です。「方」は方角の意味を持つ漢字です。そこから、二つのうちどちらか一方や片側という意味も合わせてもっています。こちらも例文を使って正しい使い方をご紹介します。
1,表が汚れたので、裏の方を使います。
2,そのプロジェクトはやめたほうがよいと思います。
例文1では、表と裏という二つの組み合わせのうち、一方を指しているため漢字表記となります。
例文2では、プロジェクトをやめるという漠然とした方向性を示しているため、ひらがな表記となります。
「方」は用法が少し難しく、例文1では単独使用ではないものの漢字を使ってよいとなっています。ここで逆転の発想をしてみましょう。
●漢字使用は誤りで、ひらがな表記が正しい → ある
●漢字使用が正しく、ひらがな表記が誤り → ない
ここまででご紹介したとおり、ひらがなは表音文字です。表音文字は意味を持たないため、使ってはいけない場面というのが基本的にはありません(もちろん、漢字で書いたほうが好ましいという場面はあります)。
したがって、「漢字」「ひらがな」で迷うときには、「ひらがな」で表記すれば、間違って使ってしまうということはなくなります。こちらもテクニックとして覚えておくと使える場面があるでしょう。
4. 「物」と「もの」
最後は「物」と「もの」の使い分けです。「物」という漢字には、物体や物質という意味があります。日本語の名詞のほとんどは「もの」に置き換えることができます。そして、そのほとんどの場合で「もの」はひらがなで表記するほうが望ましいです。例文で確認します。
1,物を置くのにちょうどよい机がありました。
2,どうぞ好きなものを食べてください。
3,今朝食べたものは何でしたか。
例文1の「物」は、物質的なものを指しています。
例文2、例文3の「もの」は、名詞全般の代わりとして「もの」という表現を使っています。
このように「もの」はあまりにも幅広くつかえるうえに、物質としての「物」という意味で使うことはほとんどないため、日常の表記では原則「ひらがな」を使うほうが無難だといえます。
最後に
いかがでしょうか。「とき」「ほう」「もの」は、日常では漢字で表記することが多いという人が多数派だと思います。もちろん、漢字で書いたから相手に意味が伝わらないという意味ではありませんから、これまでどおり漢字で表記しても日常生活に支障はありません。
たとえば「全然」「やばい」のように、誤用が市民権を得て、やがて誤用でなくなるという日本語もあります。もしかしたら、本記事で紹介した表現も、時代に合わせて変容していくかもしれません。そういった変化の可能性も、言葉のおもしろさの一つです。「こちらの記事」で語彙について紹介されていますので、ご興味のある方はご覧ください。
三つの表現をご紹介いたしましたが、さらに詳しく「漢字」「ひらがな」の使い分けを知りたいという方がいらっしゃいましたら、「漢字 ひらがな 形式名詞」と検索いただくと、より深く知っていただけます。
本記事をきっかけに「なるほど、正しい表現っておもしろいな」と思ってくださる読者が一人でもいらっしゃったら、筆者冥利に尽きます。
記事執筆者
森 裕歩 / 株式会社SRJ
首都圏大手学習塾で17年間国語講師を勤める。大学時代から講師を勤め、入社後は同期内最短で校舎長職に就く。教壇に立つだけでなく、教材や授業案、模試問題の作成も行う。また、社内授業コンクールで地域1位、勉強合宿の授業アンケートで全講師1位など、高い授業力で多くの受験生から支持を得る。現在はその国語力を生かし、株式会社SRJにて同社製品「新国語」の作成に携わっている。
好きなお酒:ウィスキー(アイラ系)
好きなおつまみ:チーズ、焼鳥
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