「社会人の学びを考える」

歯科技工士から学士取得へ 40代で挑戦する学びの道のり



社会人として活躍しながら、通信制大学で学ぶ人が増えています。

今回は、歯科技工士として20年以上のキャリアを持ちながら、大学で学びを続ける井上沙織さんにお話を伺いました。「小学校から高校まではあまり真面目に勉強してこなかった」という井上さんが、40代で再び学びの道を選んだ理由とは。デジタル化が進む歯科医療の現場で、新たな夢の実現に向けて挑戦を続ける姿には、井上さんの決意が感じられます。机に向かって技工物を作る仕事から、人とコミュニケーションを取る教員の道を目指す、その貴重な体験について語っていただきました。






目次

 1. 通信制大学入学までの歩み

 2. 学習方法や、仕事との両立

 3. 通信制大学生活での出来事

 4. 歯科技工の世界と将来展望

 5. 最後に




1.通信制大学入学までの歩み


Q1:現在のお仕事について詳しく教えてください。

歯科技工士として、入れ歯など歯科治療に使用する技工物を製作しています。実際に実習用に作ったものの見本がこちらです。誰かが利用したものではないのでご安心ください。(笑)




現在は会社勤めで、設備が整った株式会社の技工所に通勤しています。勤務時間は8時半から17時半で、1時間の昼休憩。作り上げなければならない技工物の量によって、残業が発生することもあります。



Q2:歯科技工士を目指したきっかけは?

高校生の時、実は特に将来の夢があったわけではありませんでした。親戚に歯医者さんがいて、母親が歯科関係の仕事を勧めてきました。当時の進路指導の先生から、「衛生士だと若い女性しかなれないけれど、技工士なら免許があれば、手も目も見えていれば働き続けられる」と言われたのがきっかけです。平成の初期は、まだまだ職業選択に男女差があった時代でしたね。



Q3:通信制大学 managaraに入学しようと思ったきっかけは?

一番のきっかけは、歯科技工士の学校の先生になりたかったことです。技工士免許を持っているのはもちろんですが、最近、養成学校が短期大学化していて、先生にも学士が求められるようになりました。私は専門学校卒なので高卒扱いとなり、正社員として教員になれません。臨時講師というか、非常勤のような形でしか採用されないんです。


新潟以外の地域でも教員の採用があれば応募できるのですが、やはり学士は最低限必要な要件なんです。資格系の論文を発表していればなおよいそうですが、まずは学士取得からと考えました。


※参考:ネットの大学 managara

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2.学習方法や、仕事との両立


Q4:具体的な学習スケジュールを教えてください。

平日は基本的に寝る前に1時間から1時間半ほど学習時間を取っています。休日は家事をした後、時間に余裕のある時間帯に集中的に勉強します。特に忙しい時期には、週末に6時間分の授業をまとめて視聴することもあります。


現在、秋学期で145時間分の授業を視聴しなければならず、そのうち100時間ほどを終えました。残り45時間と各科目のテスト、レポートの提出期限が迫っているので、年末年始の長期休暇もなく追い込みをかけています



Q5:レポート作成で工夫していることはありますか?

テーマによっては本を読まなければいけないものもあるのですが、時間的な制約もあるので、用意されている課題の中から、本を読まなくても取り組めるものを選んで進めるようにしています。



3.通信制大学生活での出来事


Q6:大学での学びで特に印象に残っていることは?

働きながら学んでいるので、特に組織論の授業が印象深いです。会社の組織図を学ぶ中で「うちの会社はここの組織に当てはまるんだな」と実感できることが多いです。


面白かったのは、「会社に一人は噂好きのおばさんがいるととても円滑に進む」という学術的な定義があることです。実際の職場を思い浮かべながら「わかる、わかる」と思いながら学んでいます。



Q7:学習で困ったときはどうしていますか?

実は、経済数学のような科目は苦手で困ることがあるんです。そんな時、大学生の息子が助けてくれます。息子は工学部で、グラフや数式の理解が早いんです。ある時、理解できない授業の内容を息子に見せたら、「はいはい」という感じでわかりやすく解説してくれたり。ゲーム理論や確率の計算なども、息子と一緒に1時間ほどかけて全部解きました。



4.歯科技工の世界と将来展望


Q8:歯科技工の世界も変化していると聞きましたが、変化を感じますか?

今、歯科技工の世界ではデジタル化が急速に進んでいます。たとえば、口腔内を3Dスキャンしてデータ化し、そのデータを基にコンピュータ上で設計して3Dプリンターで製作するという方法が出てきています。


海外ではすでに普及が進んでいて、日本でも大手運送会社が3Dプリンター事業に参入するなど、業界構造が大きく変わりつつあります。技工士の仕事も、従来の手作業中心から、デジタル技術を活用する方向に変化してきています。



5.最後に


Q9:この3年間で生活や考え方に変化はありましたか?

大きく変わりました。これまでは子育てを中心に回っていた生活が、一気に自分中心に変わりました。上の子は22歳で大学生、下の子は18歳で来年4月から就職が決まっています。子育ての時期を経て、今度は自分の夢に向かって進む時間を作れるようになりました。


家族との関係も変化しましたね。勉強している時は家族が温かく見守ってくれていますし、主人にも家事を手伝ってもらうことも。時には息子と学生という同じ立場で会話ができるのも新鮮です。



Q10:仕事と学業の両立で大変なことは?

時間がないことが一番のネックです。勉強すること自体は苦ではないんですが、やる時間の確保が本当に大変です。日中働いている社会人学生と、時間的余裕のある一般の大学生では、同じ1週間でも使える時間が全然違います。でも、限られた時間の中でも工夫して進めていくしかないと思っています。



Q11:井上さんにとって「学び」とは何ですか?

ある意味、人生のリセットボタンを押したような感覚です。実は、小学校から高校まではあまり真面目に勉強してこなかったんです。歯科技工士の資格を取った時が人生で一番勉強したくらいで、まさかこの年齢になってまた勉強しようとは思ってもみませんでした。


でも、机に向かって技工物を作る仕事だけでなく、人とコミュニケーションを取れる教員という道も見えてきて、新しい可能性を感じています。年齢に関係なく、やる気があれば道は開けると実感しています。



Q12:これから学ぼうと考えている社会人へのメッセージをお願いします。

始める前は誰でも不安があると思います。でも、一歩踏み出してみると意外となんとかなるものです。特に通信制大学は、自分のペースで学べる環境が整っています。私の場合は家族のサポートもあって続けられていますが、何より自分自身の「学びたい」という気持ちが大切だと思います。




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▼Profile

井上 沙織

歯科技工士として20年以上のキャリアを持つ。高校卒業後、専門学校で歯科技工士の資格を取得。現在は株式会社の技工所に勤務しながら、通信制大学で学士号取得を目指している。編入学で2年次から入学し、2025年1月現在3年生。22歳の大学生の息子と18歳の娘を持つ二児の母。


▼好きなお酒・おつまみ

お酒:アルコールは体質的に飲めないため、

   梅酒のお湯割りやソーダ割りを極めて薄めて飲む程度

飲み物:炭酸飲料全般、特にサイダーが好き

おつまみ:塩羊羹





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2025/01/16 12:03

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